【ナニコレ?】ブーツスクレイパー

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ポールモールのブーツスクレイパー

 これ何かわかりますか?ロンドンのみならず英国には18~20世紀初頭に建てられた建物がかなり残っており、今でもそうした古い建物の玄関先でしばしば目にすることが出来ます。道路に面した場所に犬を繋ぐわけでもなし、馬を繋ぐにしては心もとない作り。一体全体何だろうと思いを巡らすこと1年超、少し前にようやく何かわかりました。

 正解はブーツスクレイパー(Boot Scraper)と言い、建物に入る前に靴にこびり付いた泥をこそげ取る道具です。自動車が普及する前の19世紀以前、大きな道路は主に砂利を圧し固めたもので、そこを当時の自動車であった馬が行き来していました。自動車は排気ガスを排出しますが、馬は気体ではなく「固体」を排出します。騎馬警官の馬が排出したものを現代のロンドンでもお目にかかることが出来ますが、19世紀以前はそこかしこで目にすることができたことでしょう。そこに雨が降ると・・・。こうして靴にこびり付いた泥諸々を、建物に入る前にこそげ落とすために使われました。土足で家に上がる西洋では少しでも屋内を汚さないようにするための工夫だったのでしょう。 

 大抵の場合鋳鉄製で黒い塗装を施したものが多いようです。玄関前の石畳に埋め込んだものや、玄関脇の壁に穴をあけてそこにはめ込んだタイプもよく目にします。他にも移動可能な据え置き型の物もあるようです。アンティークオークションでも目にすることがあまりない珍品ですが、今回中堅どころのBellmansに2つ出品されています。

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Bellmans Mar-21 Lot 608: A black painted cast iron boot scraper

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Bellmans Mar-21 Lot 615: A 19th century cast iron boot scraper

恐らくは据え置き型のものではなく、玄関前に埋め込まれていたものを敷石ごと切り出してきた物のよう。タウンハウスの建て替えか何かで出回ったのかもしれません。予想価格が£80-120(約15,000円前後)って結構いい値段…。実に色々なデザインがあり、街歩きをする時には必ず探して周るお気に入りですが、妻の理解は得られなさそう。

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セントジェームス宮殿のブーツスクレイパー
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クイーンアンズゲートのブーツスクレイパー

今回のBellmansのオークションでは他にもウィンストン・チャーチル元英首相のブランデーグラスが出品されます。先日女優のアンジェリーナ・ジョリーが所有していたチャーチルが描いた絵画がChristie'sに出品され、12億円を超える金額で落札されました。1960年代のグラスとのことでアンティークではなくビンテージの扱いになる品ですが、その由来からグラス1つとしては破格のビッドがすでに入っています。予想落札価格は£7,000~10,000(約100~150万円)。

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Bellmans Mar-21 Lot 715: Sir Winston's Churchill's brandy balloon, circa 1960